aptpod Tech Blog

株式会社アプトポッドのテクノロジーブログです

EDGEPLANT T1 リリースまでの軌跡

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HW/OTチームの織江です。

今回は先日リリースされた弊社の新製品「EDGEPLANT T1 」の製品開発の軌跡を紹介したいと思います。 開発者視点から見た製品が出来上がるまでの経緯を眺めてもらえばと思います。

製品の企画や量産に伴うアレコレは別途改めてこのブログで紹介させていただきたいと思います。

企画構想フェーズ (1ヶ月)

 この段階ではNVIDIA® Jetson™ TX2を載せることが出来て、自動車のバッテリーから電源が取れて、イグニッション信号と連動して起動できる以外の要件は決まっていませんでした。想定される出荷量も読めていない状態です。出荷台数が読めない以上すんなり作れる形状を組み合わせてモックを作るしかありません。
過去に使ったことのある産業用PCを参考に既製品のアルミケースにコネクタと主要な部品を並べ、段ボールでモックを作ってどれくらいの大きさなら妥当か協議を進めます。弊社の過去の案件ではUSBケーブルの抜けやすさが問題になったこともあり、本製品ではツメ付きのロック機構を持つUSBコネクタを採用しました。このように製品の機構全体に影響を与える部品はこの段階で決めておきます。開発後期で余分なスペックを切り捨てる調整をするのは容易でなので、必要であろうスペックよりも少し余裕を持たせておきます。
この段階で必要な機能を入れていくと困ったことに防塵・防滴の冷却用のファンがどうしても収まらなかったです。それでもこの段階ではどうすることもできなかったのでとりあえず外装に乗せます。今思えばどう考えても不格好ですがプレゼンは乗り切りました。この形状で許してくれた関係各位には感謝しかないです。

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初期筐体案

設計試作フェーズ (4ヶ月 ×2)

 設計に入る前にやるのはコードネームを付けることです。これは製品の性能には関係ないのですが、楽しいというのとセキュリティ面で大事です。製品名は開発チームでは決められないですが、コードネームなら自由です。コードネームが決まれば試作基板を設計します。最初の試作ではJetsonの処理負荷を最大にした場合の余裕や全機能がまずは正しく動いているかを確認します。
OEMマニュアルを読み込んだり、開発キットの回路を参照しながら回路設計します。 電源のような重要な回路については起動時や負荷変動に対するリップルや位相マージンをのシミュレーションし、入念に検討します。

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初期試作品
と、すんなりいけばいいのですが、多少ミスが出ます。測定をしながらミスの原因を特定し、カット&トライで解決策を出し合います。ソフトウェアの設定で解決できる問題もたくさんあるのでハードウェアだけの知識では解決出来ないこともたくさんありますのでチームで乗り切ります。コロナ禍で出社が制限される中、基板を各社員の家に送り合ったりして解析を進めました。
 2回目の試作では使い勝手の向上や便利な機能を追加していきました。具体的にはGPSを使った時刻同期を導入したり、壊れやすいコネクタを壊れにくいものにしたり、コネクタのツラをぴったり合わせたり、弊社の主幹製品intdashをインストールした際の性能調査が主なものになってきます。この試作段階で以前から付き合いのあるお客様に開発機をいち早く触ってもらいながら改善点を洗い出すことが出来ました。
2回目の試作では1回目の試作で冷却性能に余裕があることが分かったので、筐体をより安価にするため、板金とアルミ鋳造で作ることにしました。今回は社内では初めて中国の工場に鋳造を依頼することにしました。鋳造を依頼する際はもちろん設計図でやり取りするのですが、正しくコミュニケーションするには図面だけだと難しいです。私は英語や図面がそれほど得意ではないので鋳造できるであろう形状を切削で作ったサンプルを使ってコミュニケーションしました。特に表面のシボや色のコミュニケーションはどうやっても言葉で伝えるのは難しいです。実物を用意してみてもらうのが確実だと改めて実感しました。
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開発中盤試作機

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広い公園でGPSの感度試験

量産試作(4か月)

 量産試作では、コストを安く抑える調整と認証試験を行います。共通化できる部品をまとめたり、不要な部品を削除したり、細かいですが地道に処理します。組立のタクトタイムを短くするため位置決めピンを設けて作業者の負担を軽減したりします。弊社のデザインチームの力を借りてロゴを入れて、より一段と製品らしくなります。

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量産試作
そしてこの量産試作機を使って認証試験を行うことになります。本製品では日本・アメリカ・EUの仕向けを想定して各地域の規制を満たすためのEMC試験を行いました。また、それとは別に車載機器に求められるEMC試験も実施して規格値を満たすことを確認しました。

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FCC試験風景

まとめ

 開発を始めてから1年以上かかりましたが、納得のいく製品に仕上がっていると思います。都立産業技術研究センターをはじめパートナー会社のみなさまには大変お世話になりました。今後は量産品質と安定供給にフォーカスし、お客様に信頼いただけるハードウェアになるよう出荷後のサポートを丁寧に行っていきたいと思います。