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株式会社アプトポッドのテクノロジーブログです

AI自動運転におけるEDGEPLANT T1活用事例のご紹介(Turing株式会社様)

当社製品の EDGEPLANT T1 を開発に活用してくださっているお客様の事例を、インタビュー形式でご紹介します。最新のビジネスの現場で当社製品がどのように活用されているかや、当社製品を実際に使ってみての評価等について、お客様の生の声でお伝えいたします。

今回インタビューをさせていただいたのは、「ハンドルの無い完全自動運転車」の実現を目指して自動運転AIシステムの開発を行う Turing株式会社 様(以下、チューリング社)です。同社は、世界で初めて名人を倒した将棋AI「Ponanza」の開発者である⼭本⼀成氏と、カーネギーメロン⼤学で自動運転を研究しPh.D.を取得した⻘⽊俊介氏によって2021年に共同創業されたスタートアップで、カメラ映像のみを用いたAIによる自動運転技術に強みを持っています。

今回は、チューリング社の車両開発部にてチーフエンジニアをつとめていらっしゃる徳弘賢人氏に、事業の内容から開発の裏側まで、様々なお話を伺いました。

本記事は、インタビューアーをつとめましたアプトポッドVPoPの岩田がお送りいたします。

Turing株式会社 車両開発部 チーフエンジニア 徳弘賢人氏


Turing株式会社について

アプトポッド岩田(以下、岩田): 本日はよろしくお願い致します。まずは、御社の事業内容について教えていただけますか。

チューリング徳弘様(以下、徳弘): はい、我々チューリングは、「完全自動運転の実現」と「ハンドルのない車の販売」を事業目標としている会社です。完全自動運転システムの開発はもちろんですが、最終的には、量産車メーカーと呼ばれる量産ラインを持っている自動車メーカーになることを目標に事業を進めています。

この目標を実現するためには、大きな2つの超えなければならない課題があります。1つめは「完全自動運転を実現する知能の開発」、2つめは「自動車の車体の開発」です。知能と車両の双方を自社で開発することで、目標としている「ハンドルのない完全自動運転車両」の実現を目指しています。

岩田: 知能だけでなく車体そのものまで自社開発しようとしているのが、御社の特徴ということでしょうか。

徳弘: はい、その通りです。完全自動運転向けの知能の開発だけでもそもそも難しいチャレンジではありますが、そこに加えて我々は車体自体も自社開発しようとしています。この双方をターゲットにしているスタートアップはなかなかありません。

また、我々の目標である「ハンドルのない車の販売」は、既存の完成車メーカーとも異なるポイントです。そういったコンセプトを打ち出しているメーカーもあるにはありますが、既存事業との兼ね合いを考えると、それをメインの事業として推進するのはなかなか難しいだろうと考えています。我々は自動運転AIに強みをもつ会社ですが、ただ待っているだけではそういったコンセプトの車は現れてこないだろうということで、自分たちで車体から開発することにしました。 

ちなみに、車体開発のようなハードウェアとAI開発のようなソフトウェアでは、ものづくりに対する考え方やアプローチが全く異なります。弊社代表がチューリングを設立した当時の思いとして「AI開発の経験で培ったソフトウェア開発の考え方を主軸に、ハードウェア開発の考え方の良いところを取り入れてもっと良い車づくりを実現したい」というものがあり、我々社員もそういった考えを魅力的に感じ、実現に向けて現在活動しています。

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現在、AIを活用したコンセプトカーデザインなどにも取り組まれています


最初のプロダクトTHE FIRST TURING CARについて

岩田: 先日ニュースリリースで、御社最初のプロダクト「THE FIRST TURING CAR」の販売と成約について拝見しました。まずはご成約おめでとうございます。

徳弘: ありがとうございます。

岩田: このTHE FIRST TURING CARの開発において、弊社のEDGEPLANT T1をご活用いただいたと聞いています。まずは、プロジェクトの概要について教えていただけますか。

徳弘: 今回販売したTHE FIRST TURING CARというプロダクトは、自動運転のレベル2に相当するシステムを搭載した車両で、市販車両を改造して我々の自動運転AIを搭載したものになります。レベル2相当のシステムなのでドライバーの監視が必要にはなりますが、高速道路での前方追従、前方車がいない状態での速度や車線の維持、車線変更などのドライバー支援機能を提供しています。特徴的なところとしては、搭載している自動運転AIは我々が得意としているカメラ映像ベースのものであるという点と、その自動運転AIの作動状況をユーザーに提示するユーザーインターフェイスを提供している点です。

市販車をベースとして製作された THE FIRST TURING CAR

岩田: ニュースリリースによると、今回のシステムは完全自動運転ではなくあくまでドライバー支援とのことですが、機能的にはどのような違いがあるのでしょうか。

徳弘: 違いは大きく分けて2つあります。

1つめは自動運転AIへの入力として利用する情報の違いです。今回のシステムで利用している情報は前方カメラの映像のみですが、完全自動で運転するには周囲360度全方位の映像を利用する必要があります。今回のシステムでは、完全自動運転に必要な全情報をAIに入力できているわけではありませんし、仮に必要なすべての情報を取得したとしても、それをさばききれるシステムにはなっていません。

2つめは車体ハードウェアの違いです。今回は市販車を改造して製作していますので、全ての挙動を自由自在に制御するところまでは実現できていません。ハンドルのない完全自動運転の車を実現するには、たとえば車両が自ら自動で起動/停止したり、勝手に目的地まで移動したりといった、人間が操縦する既存の車の延長ではない仕組みが必要になってきます。今回は、市販車をベースにしたことで外部からアクセスできる範囲での制御にとどまっており、我々が目指す完全自動運転車両の実現のためにはやはり自分たちで車両から開発するしかないということを改めて感じました。

岩田: なるほど。市販車に後付けする形での開発としたことで、制約の範囲内での機能実現にとどまっているということですね。ちなみに、今回のこちらのプロジェクトにおいて、弊社のEDGEPLANT T1はどのようにご活用いただいたのでしょうか。

徳弘: 御社のEDGEPLANT T1は、まず開発の工程で数台利用させていただきました。また、最終的にTHE FIRST TURING CARそのものにも1台搭載しています。

岩田: 販売されたあのTHE FIRST TURING CARの中でも、我々のEDGEPLANT T1が稼働しているということですね!なんだか嬉しく思います。

開発中の実験車に EDGEPLANT T1 が搭載されている様子


EDGEPLANT T1採用のきっかけと選定理由

岩田: 弊社のEDGEPLANT T1は、どのように見つけてくださったのでしょうか。

徳弘: 一番最初のきっかけは、AWSのソリューションアーキテクトの方から御社のデバイスをご紹介頂いて、検討用にとりあえず1台購入してみたというところからでした。当時社内では、普通のラップトップPCでソフトウェア開発を行って、それをそのまま車両につなげて検証するという方法で開発を進めていました。なので当初は、購入したものの実はそれほど使用していませんでした。

岩田: そうなんですね。その後どういったきっかけで採用に至ったのでしょうか。

徳弘: その後開発が進み、そろそろ車体へのAIの組込みを検討し始めなければというタイミングで、すでに手元にあった御社のEDGEPLANT T1を含めいくつかのデバイスを比較検討して採用デバイスを絞り込んでいきました。半導体不足による調達難の影響もあり納期の長いデバイスもいくつかありましたが、期間的にもあまり余裕がなかったためそのようなデバイスは候補から外していきました。

一方御社のEDGEPLANT T1は、我々がデバイスに求める最低限のスペックはクリアしていましたし、なにより Amazon.co.jp から簡単に購入できたことで、開発のためにある程度のボリュームで早急に入手したかった我々としては非常に助かる選択肢でした。

岩田: 最低限のスペックはクリアしていたということですが、具体的にはどのような要件が必要だったのでしょうか。

徳弘: 基本的に車両に搭載するデバイスになるので、EMC試験や耐振動試験にパスしている必要があります。一方で、今回のシステムはドライバーの監視のもとで作動するものなので、たとえばAEC規格などの量産車両の部品に求められる厳しい基準までは満たしている必要はありませんでした。EDGEPLANT T1は汎用コンピュータということで、そういった厳しい基準までは満たしていませんでしたが、Eマークを取得していたり電磁特性/環境耐性が備わっていることがスペックから分かったため、問題ないと判断しました。不足する部分については、たとえば車両との間にセーフティーマイコンを挟んだり、他のコントローラと相互監視させるなどの工夫によってカバーしています。

また、他のデバイスとの比較検討の過程で、EDGEPLANT T1が使用しているNVIDIA Jetson TX2よりも新しい世代のSoCを搭載したデバイスなども検討しましたが、あまり性能が高すぎても消費電力が問題となることもあり、むしろ最低限の性能を有しているEDGEPLANT T1に合わせて、AIシステム側をスリム化する方向に向かいました。

全体として御社のEDGEPALNT T1は、電磁特性や環境耐性、消費電力といった観点で難しいことを考えないでパッと自動車に積めるスペックに仕上がっていて、非常に完成度の高いデバイスだなと感じています。

山本一成氏のSNSに登場した3台のEDGEPLANT T1


EDGEPLANT T1を実際に使用した感想

岩田: 実際にEDGEPLANT T1を使用していただいての感想はいかがでしたか。

徳弘: 一言で申し上げますと、非常に使いやすいな、というのが率直な感想です。すこし乱暴な言い方になりますが、適当に電源を挿しても動きますし、電源制御の機構が内蔵されていて車のイグニッションに連動してくれるので、電源管理が楽にできました。

I/Oに関しても、デバッグしやすいポートがついていたり、拡張性も高かったりと、全体的に見て、我々にはちょうどよい、使いやすいシステムだったと思います。

岩田: ありがとうございます。逆に、使ってみて不足に思うことはありましたか。

徳弘: 細かい点を挙げるならば、たとえば、システム内に監視用のチップがもう一つ積まれていたほうが良い、I/Oについては汎用的なものだけでなくもっと堅牢な専用設計のものがあると良い、CANのようなI/Oについてはもっとコネクタ数が欲しい、などいろいろとあるにはあります。しかし、こういった要件が満たされているに越したことはないものの、これらはあくまで我々のシステム固有の要望であってEDGEPLANT T1のような汎用的なパッケージングとして不足があるということではないと思います。

基本的な我々の感想としては、汎用的なパッケージングとしての機能性は十分である、というもので、それ以上の細かい不足については、自分たちで実装して外側に付加していけばよいと思っています。I/Oさえ充実していれば、あとはソフトウェアでどうにでもなる話ですしね。

岩田: そうですね。やはりEDGEPLANT T1は汎用的なデバイスということで、個別の用途にしっかり最適化していこうとすると、若干物足りない部分はあるのかもしれません。

チューリング社での開発の様子


今後の弊社ハードウェアに対する期待

岩田: 今回利用していただいたEDGEPLANT T1に限らず、今後の弊社製品への期待としては、なにかご要望はございますか。

徳弘: ここは正直に申し上げるとなかなかコメントが難しいのですが、我々のような車両開発を行うメーカーにとって、システムとして信頼性が高く安全なものに仕上げていくには、今後はやはり専用設計のハードウェアを使用していかざるを得ないのかなと考えています。そういった文脈で、車両開発の領域において御社のEDGEPLANT T1のような汎用製品を使用する期間は、実はもうそれほど長くはないのかなと考えているのが正直なところです。

一方で、我々は車両開発と並行して自動運転AIモデルの開発も行っているわけですが、そのためのデータ収集のプロジェクトが現在社内で進行しています。御社のEDGEPLANT T1のような製品は、そういったデータ収集の領域では確実に需要があると思います。たとえば、データ収集の際にデバイスエッジで整合性チェックなどの前処理をさせれば、データ収集ワークフローの効率が全然変わってきます。弊社でも、今後周囲360度全方位の映像データを利用していくに当たり、16個のカメラから映像データを収集したり前処理をしたりすることが需要として出てきそうですが、その際にはよりハイエンドなデバイスが必要になってくる可能性があります。

車両開発の領域からは外れますが、自動運転AIの研究をしている研究機関や企業にとっては、そういったある程度ハイエンドで車に簡単に積み込んで使用できる汎用デバイスは、需要があるのではないかと思います。

岩田: 確かに、我々のお客様の活用事例を見ていてもやはり圧倒的に多いのはデータ収集のプロジェクトになります。今回ご活用いただいたEDGEPLANT T1についても、もともとはデータ収集デバイスとして開発された製品なので、そういった意味で御社の活用事例は弊社の中ではレアケースに該当しますね。

今回は、開発期間も短くスピード感が求められる中で、入手性や使いやすさを評価いただいて弊社製品を採用いただいたわけですが、たとえば他の研究開発機関などのプロトタイピングフェーズにおいて、同様の点が評価される可能性についてはどう思われますか。

徳弘: これについては、組織によりけりだと思います。我々のように最終的に製品をつくることを目指して開発をしているような組織では、やはり最終量産時に使用するシステムに近いものを使用して開発したいという思いは、どうしてもあると思います。一方、大手のOEMさんのような先行開発部隊を抱えている組織であれば、完全にゼロから新規設計を行う際にまず汎用品を使用するという可能性はあると思います。


Turing株式会社の今後の展望

岩田: 最後に、御社の今後の展望やマイルストーンについて教えていただけますか。

徳弘: はい、弊社チューリングは、やはり冒頭に申し上げたとおり「ハンドルのない完全自動運転車を開発してリリースする」というところを目標に活動しております。ですので、われわれの現在のあらゆる活動はすべてこの最終目標に向けたものになっています。

そこに至るまでのマイルストーンとして直近で目指しているのは、我々自身で開発したEVの自動運転車両を少量生産して2025年にリリースするというところです。これを実現するために、まずは来年2024年末までに自社開発EVのナンバーを取得する計画になっています。ナンバーを取得する車両は、自社開発EVのフレームに、EV用の各種コンポーネントや計算機を我々で組み付けて、我々の自動運転システムの搭載したものになる予定です。

岩田: なるほど。それだけのことを実現しようとすると、2025年も遠いようでそれほど時間は無いのかもしれませんね。

徳弘: そうなんです。実は意外と時間が無いな、というのが現場の感覚です。

岩田: ちなみに、御社は 「We Overtake Tesla」というビジョンを掲げていらっしゃると思いますが、2025年よりも更に先にはどういった方向を見据えていらっしゃるのでしょうか。

徳弘: 2025年よりもさらに先となると不確実性がかなり高くなってしまいますが、やはり「ハンドルのない車を量産する」という目標の達成が目指すところになります。この目標の達成は、現時点では2030年を想定しています。そうなりますと、2026年か2027年ごろにはもう量産ラインの取得に向けて具体的に話が進んでないと間に合いませんし、現在の2025年というマイルストーンもそこから逆算して設定したものになっています。

山本一成氏のSNSでは、同社の幅広な事業活動を覗き見ることができる

さらに「ハンドルをなくす」というところは、エンジニアリングだけの問題ではなく、法規的な問題も解決していかなければなりません。また、自動運転で使用する知能についても、まだまだもっと賢いAIを開発していかなければなりません。最近ではChatGPTがかなり賢くなってきているので、このままいけばなんとかなるのではないかという話も出てきていますが、ああいったものがリアルタイムかつ高速に、しかも常に高い精度で動作しなければならないとなってくると、AIとしてだけでなくシステムとしての完成度にもかなり高いレベルが必要になります。

車両開発については先程の通り2025年をひとつのマイルストーンとして設定していますが、他の法規的な問題、自動運転AI知能の開発という点についても、別途マイルストーンを設定して進めています。

岩田: なるほど、最近の御社のニュースリリースで、生産拠点の開設や千葉県知事との意見交換、大規模言語モデルの開発への着手など、様々な話題が上がっているのを拝見していましたが、これらはすべてひとつの目標に連動するものだということが改めてよく分かりました。


本日は、EDGEPLANT T1の採用に関わるエピソードや御社の開発プロジェクトにおける要件、実際にEDGEPLANT T1を採用してみての感想など、広い範囲で質問に回答いただき、大変参考になりました。

御社の自動運転車両が実際に発売されるのを楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました!


インタビューを終えて: EDGEPLANT T1のご紹介

いかがでしたでしょうか。いまとても勢いのあるスタートアップであるチューリング社が、我々のEDGEPLANT T1について、どのような点を評価しご採用いただいたのか、読者の皆さまにもお伝えできていれば幸いです。


最後に、インタビュー中に何度も登場していた弊社の車載向け汎用コンピュータ、 EDGEPLANT T1 について改めてご紹介させていただきます。


EDGEPLANT T1の外観

EDGEPLANT T1は、NVIDIA Jetson TX2を搭載した車載向けエッジコンピュータです。256基のNVIDIA CUDAコアを実装したGPUによって、デバイスエッジでのAI処理や映像・画像処理を実現します。また、SIMスロットやGPSモジュールを備え、モビリティーのコネクテッド化に必要な機能をオールインワンでご提供いたします。

EDGEPLANT T1の主な特徴

  • SIMスロット搭載、GPSモジュールを内蔵
  • EMC規格(Eマーク)、信頼性規格(JASO D014)に準拠
  • 広い電源電圧レンジ(9〜36V)に対応し、大型車・建設機械に利用可能
  • 広い動作温度範囲(-20°C〜+65°C)
  • イグニッション連動による自動起動と自動シャットダウンが可能
  • Wake on CANに対応し、CAN信号に連動して自動起動が可能
  • 電源管理とフォルト監視の独立MCUを搭載
  • 防塵性能と冷却性能、メンテナンス性を兼ね備えた筐体外付けのファン機構
  • 脱落防止ロック機構付きのUSB 3.0コネクターを装備

より詳細なスペックについては、 こちらのデータシート をご覧ください。


EDGEPLANT T1は、以下の販売パートナー様よりご購入いただけます。
詳しくは、 製品紹介ページ をご確認ください。

  • 株式会社マクニカ 様
  • 菱洋エレクトロ株式会社 様


また、Amazon.co.jp からもご購入いただけます。
在庫も潤沢にございますので、この機会にぜひ導入をご検討ください。


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