はじめに
aptpod Advent Calendar 2022 9日目の記事を担当する、開発本部の加藤と申します。
aptpodでは自社製のハードウェアも提供しております。現在、コンピュータ製品にはEDGEPLANT T1がありますが、異なるニーズやユースケースにも対応できるような、測定用のペリフェラルを内蔵したコンピュータの試作機開発を行っています。この試作機の特長等についてご紹介させていただきます。こちらの試作機にご興味をお持ちいただけましたら、当社までお問い合わせください。製品化に向けたロードマップや、試作機の試用等についてご案内させていただきます。
開発の背景
aptpodでは、intdashという双方向データ伝送プラットフォームを使用したデータ収集および遠隔制御サービスをご提供しております。 冒頭申し上げました通り、自社製のコンピュータにはEDGEPLANT T1があり多くのケースでご提供しております。このコンピュータはエッジ側でGPUを活用したAI処理を行う意図をもって開発しましたが、自社サービス専用ということではなく汎用的にも使用できるように設計されています。実際にアマゾンで単体販売もしております。自社のサービスの全てでこのEDGEPLANT T1を使おうとする場合には、以下の課題があります。
インターフェイスが少なくUSB周辺機器とセットで利用する必要がある
汎用的に使用できるようにUSBのポートを多く持たせ、インターフェイスの種類は少なく設計している為、USB周辺機器とセット利用が必要となります。その結果USB機器の製造も別途必要となります。製造する製品の種類が増えてしまうのは、生産管理が難しい、価格も高くなるなどのデメリットがあります。
物理的なサイズが大きい
処理能力が高くその際の放熱なども考慮されている為、それを必要としないケースではコンピュータ単体のサイズが必要以上に大きくなっていることになります。また、USBポートやそこからの供給電力を多く用意し多様な組み合わせに対応可能な汎用性を持たせており、用途が限定されるCANインターフェースやアナログ/デジタルインターフェースは内蔵しておりません。多くの場合、EDGEPLANT CAN-USB Interfaceと組み合わせて構成しているのですが、測定対象が一定数以下の場合には、物量が必要以上に大きくなってしまいます。
課題解決の方法として、下記の条件を満たすエッジコンピュータを準備することを考えました。
- 弊社のデータ収集サービスでよく使われる測定用の機能を内蔵している。
- 内蔵している機能は全て同時に使用できる。
- 小型・軽量
より詳細な条件は、以下の通りとなります。
- LTE通信機能を有する。
- 弊社のデータ収集サービス(データ完全回収)で使用できるCANやデジタル入力、アナログ入力機能を内蔵している。
- 内蔵している測定機能を全て同時に使用できる性能を有する。
- 自動車のデータ収集に必要十分な品質を備える。
- 動作電圧 9V~36V、動作温度範囲 -20℃~65℃。
- 長期間継続して購入可能であることが期待できる。
上記条件を満たすコンピュータが市販されていないか探してみましたが、全ての条件に合致するものは見つかりませんでした。その為、自社で開発・試作を行いました。
仕様概略
仕様概略につきましては、横浜ロボットワールド2022の参考出展時に配布させていただいたリーフレットをご覧いただければと存じます。
仕様詳細
仕様の意図や工夫した点などご説明させていただきます。
外観および入出力
サイズは幅88mm×奥行き94mm×高さ32mm(取付板を含まない)、質量は250gとなっております。自動車のダッシュボードの収納スペースやオートバイのシート下収納スペースにも収まるようにコンパクトにまとめました。
入出力端子の配置は以下のとおりとなっております。
SOM
SOMは、Raspberry Pi CM4を採用しました。コストパフォーマンスが高いこと、Raspberry Piは世に多く出ているハードウェアであり既にそこで動作するソフトウェアも多く作られていると考えられること、Linuxが動作すること、動作温度範囲が広いこと等が選定の理由です。Raspberry Piは弊社でも活用事例は多いです。以下は、Raspberry Piを使用した過去の記事のリンクです。
- "リアルタイム"デジタルツインデモを展示しました
- IoTボタンによる回数記録基盤をAWSとRaspberry Piで構築する
- Bluetooth Low EnergyのclientアプリをBlueZとpythonで作ってみた
- intdashを活用したシステム開発
- 5Gのネットワークを計測してみた
- 通信遅延発生時にTurtlebot3を安全に遠隔制御する技術
- ラズパイでCAN通信をして、車両の診断データを送受信してみた
通信機能・GNSS機能
内蔵の通信機能はLTEを採用しました。aptpod のユースケースではLTE通信が欠かせない為、必須要件であるからです。通信モジュールは、SIERRA WIRELESS社のEM7431にしました。これまで弊社で使用していたEM7430と比較して安価であること、GNSS機能も内蔵しておりコストパフォーマンスが高くなることが理由です。有線LANやWi-Fiが必要な場合には、USBから拡張していただく想定です。
USB
USBポートは2ポートとしました。想定したのは、EDGEPLANT USB CameraとCAN-USB Interfaceで2ポート、あるいはEDGEPLANT USB Cameraとマイクで2ポートという使い方です。 データ収集ではカメラは使用頻度の高いデバイスなのですが内蔵してしまうと取付位置の自由度が下がってしまう為、USBによる外付けとしました。 マイクのインターフェースは、3.5㎜ミニジャックのものとUSBのものがあるのですが、データ収集サービスではマイクの需要はそこまで高くない為、汎用的に使えるUSBを使用することを考えました。 USBのコネクタはネジ止めができません。振動・衝撃でコネクタが外れないようにする為の高保持力(15N)のコネクタを採用しました。
CAN
接続したCANバス上のデータを取得する為のインターフェースです。測定用のサービスに使用する場合、CANに流れるデータ全てを記録する必要があります。CANのデータは高頻度で発生する可能性があり取りこぼしを起こさないようにする為に、専用のマイコンで受け取る仕組みにしました。内部回路は弊社の製品のCAN USB-Interfaceと同じにしました。
加速度・角速度センサ
筐体中心部に加速度・角速度センサICを実装しています。移動体の測定に使用することを想定している本製品にはあるべき機能と考えました。フルスケールが加速度は±2/±4/±8/±16g、角速度は±125/±250/±500/±1000/±2000dps、分解能はそれぞれ16bitです。
アナログ入力
下記の様な入力を想定して汎用的なアナログ入力ポートを4ポート設けました。入力回路は、インピーダンスを高くして接続先の動作の影響が少なくなる様意識しました。
- 各種状態検知:測定対象が出すエラー信号やLED制御信号の検出を行うケース
- センサ入力:測定対象に内蔵されているセンサーの電圧を測定するケース
- 各所電圧・電流検知:電圧や電流の測定を行うケース
- 外部スイッチ:自動車等の測定で運転者が任意のタイミングでスイッチを押し、後で検索しやすくするケース
電源ON/OFFの仕方
自動車に接続する場合を想定して、バッテリーが接続された状態でイグニッションキー(ボタン)の電圧を検出して電源ONする仕組みにしています。専用の入力端子があり、そこに9V以上の電圧印加で電源ONということです。入力がオープンかGNDレベルになると終了処理してからOFFになります。イグニッションキー(ボタン)は監視用のマイコンで常にチェックしています。このマイコンはCANバス信号もチェックすることが可能で、その内容によって電源ON/OFFする仕組み(Wake on CAN)も準備しています。電源OFF時の待機電流は、バッテリー電圧12V・周囲温度25℃の条件で約5mAでした。
ストレージ
Raspberry Piシリーズと同様、ストレージはmicroSDカードを採用しました。データの信頼性の高い産業用のSLCモード64GB品を使用しました。また、意図しないバッテリー断でデータ破損しないように電断保護機能有りのものを選びました。
防水機能
防水機能について検討したのですがどうしても小型化と相反する為、外付けの防水ケースを別に設計・試作しました。ケーブルを通す防水ゴムは、ケーブルを先に通してからケーブル端を加工するものが多いのですが、この方式ですとUSBケーブルやアンテナケーブルの接続が困難になる為、コネクタ付のケーブルに取付けできるタイプを採用しました。
社内テスト
試作機で行った社内試験について簡単にご紹介させていただきます。国際規格の試験も行っておりますが、試験を行った試験場は認証試験場ではないことにご注意ください。
動作温度範囲
-20℃および65℃で起動及び24時間の連続動作を確認しました。
静電気放電試験
試験方法はIEC61000-4-2で、接触放電±8KV、気中放電±8KVで、動作停止しない・故障しないことを確認しました。
ファスト・トランジェント/バースト試験
試験方法はIEC61000-4-4で、電源ラインにノイズを印加する試験を行いました。テストレベル1(500V)にて、自己回復不可能な機能障害が無いことを確認しました。接続するディスプレイやUSBデバイスによって結果が大きく異なり、苦労しました。
放射エミッション試験
試験方法は、FCC Part15 Subpart Bで3m法で行いました。これも接続するディスプレイやUSBデバイスによって結果が大きく異なり苦労しました。本試作機単体(接続デバイスを選べば)では、ClassBで合格できそうなことを確認しました。
自由落下試験
試作機単体で1mの高さからコンクリートに自由落下させる試験を行いました。故障・変更・動作異常などなく問題ないことを確認しました。
未実施の試験
製品化を行う場合には最終の仕様にて下記についても試験を行いたいと考えております。
- 振動・衝撃試験
- 過渡伝導エミッション/イミュニティ(ISO7637-2)
- 放射イミュニティ(IEC61000-4-3)
- 伝導イミュニティ(IEC61000-4-6)
実際のデータ収集での使用例
本試作機を使用したデータ収集の例をご説明させていただきます。 試作機にソフトウェア(intdash Edge)を実装し、実運用に近い自動車での動作を確認しました。
下記のデータ全て取得できることを確認できました。
- カメラ:1台、解像度はHD、15fps
- GNSS:1台、位置検出、1秒に1回更新
- CAN:内蔵CAN1ch+EDGEPLANT CAN-USB Interfaceを1台追加=合計3ch
- 角速度センサ:3軸、各分解能16bit、104sps
- 加速度センサ:3軸、各分解能16bit、104sps
測定データはVisual M2M Data Visualizerで確認しました。各種データを様々な方法で可視化可能なツールで、測定中にリアルタイムで確認することも測定後に確認することも可能です。実際の表示画面を添付します。
横浜ロボットワールド2022
横浜ロボットワールド2022の弊社ブースでこの試作機の展示をさせていただきました。私も説明員として立ち会わせていただきました。 充電式電池(単3×8本)で駆動してワイヤレスにして、回転台の上に載せました。EDGEPLANT CAN-USB Interfaceを接続。アナログ入力には測距センサも接続しました。回転させるとカメラ画像、内蔵の角速度センサのデータ、測距センサのデータが、リアルタイムに滑らかに表示される気持ち良い仕上がりになりました。 動作をみて頂いたお客様にも「センサーの状態がリアルタイムで確認できるのは良い」「電池駆動できるのは面白い」などご意見いただき大変好評でした。ご来場いただきありがとうございました。
最後に
試作したコンピュータを使用した弊社のデータ収集サービスについてご理解いただけたかと思います。もし、intdashや本試作機にご興味いただけましたら、是非ご連絡をお願いします。また、本記事では記載できませんでしたが試作機(ハードウェア)は遠隔操作または自律移動ロボットのECUとしても利用可能ではないかと考えております。もし、Raspberry Piベースの堅牢なコンピュータにご興味あれば是非お声がけをお願いします。仮に本試作機(ハードウェア)をご評価いただけるということであればすぐにご提供致します。ご連絡をお待ちしております。最後まで読んでいただきありがとうございました。